起業家

研究開発リソースのシェアリングサービスが目指す未来

研究リソースのシェアリングサービス「コラボメーカー」を提供する株式会社Co-LABO MAKERの古谷優貴さん。研究者としてキャリアを積む中で感じていた問題意識をもとに事業化したストーリーについてお話を聞きました。

どんなイノベーションを目指しているか

研究開発リソースがなめらかに循環する仕組みを創る

研究リソースのシェアリングサービス「コラボメーカー」の運営を、株式会社Co-LABO MAKERという東北大発ベンチャーの代表として取り組んでいます。

「コラボメーカー」は「実験設備を使いたい研究者(利用者)」と「使われていない実験設備を持つ大学や企業(提供者)」をマッチングして、研究リソースをシェアリングするサービスです。

「CO-LABO MAKER」の概要=古谷さん提供

利用者にとっては研究に必要な機材を早く安くそろえることができ、提供者にとっては設備を貸し出すことで資金を得ることができるというメリットがあります。

これらのサービスを立ち上げるきっかけ(原体験)は、大学時代の研究室でも総合化学メーカーに就職して半導体関連の研究開発をしていた時も研究開発のハードルの高さをすごく感じていたことです。

新しい実験をしたいと思っても本格的な機材を準備するには多額の費用がかかります。

「なぜ研究者としてのキャリアはこんなに困難なんだろう。なぜやりたい実験ができないんだろう。」という想いがあり、大学だけでなく大企業ですら能動的な研究開発は困難だという実態を知って、これをもっとよくできないかと、サービスの立ち上げを考えました。

これまでの歩み

私自身は福岡の久留米出身で3歳くらいまでいました。父の転勤で、石垣島や千葉に住んでいたこともあり、小学校高学年から盛岡に引っ越し、高校時代を過ごしました。

東北大学に入学して材料系の研究を行い、総合化学メーカーに研究職として就職しました。入社後は半導体材料の研究開発や試作工場の立ち上げなどをやっていました。研究職の仕事を楽しんではいたのですが、自分の時間がなかったり、このままでいいのかと悶々としていたこともありました。

私の場合、起業を最初からはっきり考えていたわけではなく、こっちに行ったらもっと面白いんじゃないかと考えて、いろんなイベントに出たり、小さなチャレンジ・小さな一歩を踏み出しているうちに、雪だるま式に人生が激変しました。心理学に「人生の大部分は偶発的な出来事で決まる」という計画的偶発性理論(Planned Happenstance Theory)という考え方があるのですが、この理論を意識して、まずは行動していました。

本気で起業することを志すきっかけとなったのは、賞金100万円のビジネスコンテストに参加したことです。社会を変える課題に取り組むアイデアコンテストだったのですが、結果的に大賞を取ることになり、思っていた以上に社会に対して価値あることができそうだと思って、そこから本気で考えることになりました。

もともとビジネスアイデアを一緒に考えてくれる2人の仲間がいたのと、東北大に居た時の恩師が大学発ベンチャーで先に起業していたのもあって、相談できる人がいたのも大きかったです。

起業のアイデア自体は自分の研究者としてのキャリアの中で感じていた「ほぼ使われない高価な実験装置が多数ある」「できる実験が所属でほぼ決まる(本当にやりたい実験がなかなかできない)」といった課題を解決したいと思って自然と出てきたもので、コンセプト自体は起業当初からほぼ変わっていません。

会社を始めてからは、早々に資金調達に成功したり、1年も経たずにサービスをリリースしたり、仲間集めもできたり順風満帆な出だしだったのですが、肝心のサービスで利益が出せなかったり、資金面での苦労もありました。

当時はけっこう苦しかったのですが、「このやり方ではうまくいかなかったけど、こうすればいいんじゃないか」とトライアンドエラーを繰り返しながら今の事業の形になり、安定してきました。「仮説を立てて実行し、うまくいかないようであれば再度違うやり方を考えて試す」というのは研究と同じだったかなと思います。

アイデア・技術を実現するために

どこのポジションでやるかによってだいぶ変わると思いますが、起業というアプローチであれば、アイデアの絵を描いて、ブラッシュアップして、思考して行動してというのを繰り返していくことが大切です。

この点で言うと、意外と研究者としてのスキルが活きるなと思います。起業は手元に答えがないところから、こうやったらできるんじゃないかというのを考えて、違ったら再度変えてというのを回していくことになりますが、「答えがないところで試行錯誤して、答えを見つけ出す」というプロセスは、研究者であれば息をするようにやっていることなんですよね。この実験でうまく行かなかったから、こういう実験すればいいんじゃないかとか。

また、最初のアイデアを発想する上で大切なのは、良い仮説をつくることだと考えています。良い仮説をつくるためのコツとしては、まずはざっくり考えすぎないくらいに考える。それで仮説が立てられないなら、その領域に詳しい人の話を聞いたり、調べてみる。仮説を立てて、話を聞いてみて、想像していたのとどう違ったかを考えることで、アイデアが磨かれて行きます。

アイデアができても、いくつもの条件を満たさなければ事業は生き残っていけません。市場があるかどうか」「顧客のニーズに応えられるのか」「解決策を出せるのか」「市場の中で自分たちが一番になれるのか」といった条件を最後は全部満たさないといけません。


例えばITは実現が容易なので、適切なニーズを見つけられれば事業として成立すると思います。一方で、技術はすごいが顧客ニーズとフィットしていなくて消えていくというのはよくあることです。技術があるのであれば、その技術でどんな課題を解決できるのか、その課題は市場性があるのかを探索し、検証しなければなりません。例えば、「小さくて高性能な特殊な材料を作れる技術だったら、医学ならお金を出せるニーズがあるのではないか?」「高機能な電池の負極材料として応用できるのではないか?」こういった仮説を立てて、検証しての繰り返しです。実際は顧客→課題→解決策→プロダクトというような一方通行ではなく、いったりきたりしながら全体の質が、解像度が上がっていくようなイメージなのです。

未来へ向けて・高校生へのメッセージ

今後目指す方向性は「研究開発のエコシステムをアップデート」です。研究に関する問題はたくさんあります。もっと効率的にできる方法もありますし、未来の投資に回すやり方もあると思います。今のコラボメーカーで、これらを変えていくことはできると思っています。

最近も資金を調達できることになり、ようやく本当にやりたいことをじっくり考える時間ができたので、そこを詰めようという段階にきています。コラボメーカーを利用するユーザーが増えることで、大学や民間の研究室の実践的なデータがたまっていきます。それと同時に、「こういう研究がしたい」などニーズのデータもたまってくる。これらのデータを武器にいろんな事業を展開していきたいと思っています。また、同様のニーズは海外にもあるでしょうから、海外展開もしていきたいです。

僕は、高校生の頃は特別将来に対する強いイメージはなく、起業家になっているとは想像していませんでした。社会に出てからも、しばらくは起業を意識しておらず、ちょっとしたきっかけから徐々に変化し、起業して今にいたります。きっかけがあれば変われるポテンシャルがみなさんにはあると思います。これを読んでいるということは、そのきっかけが見つかりそうな場に踏み出しはじめているということなので、みなさんの今後がとても楽しみです!ほとんどの事は取り返しがつかないわけではないので、変化や違いを恐れず、チャレンジ・実験を気軽にしてみてください。そこから想像もつかないところにたどり着くかもしれませんよ。

編集後記

起業を志してから、フルスピードで事業を拡大させてきた古谷さん。事業化を決めてからは、様々なイベントに出て、人と会う中で事業のブラッシュアップと人脈づくりを同時にやってきた印象を受けました。順調に資金調達を実現した背景にあるのも人脈づくりをしてきたからで、東京のスタートアップ関連のイベントに参加して、ベンチャーキャピタルの人たちともつながりができて、資金調達の話を通しやすくなったのも大きかったとのことでした。 ちなみにお薦めの本は「ご冗談でしょう,ファインマンさん(岩波現代文庫)」だそうです。

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