大学発ベンチャー

長寿命の蓄電池で、持続可能なエネルギーの基盤を作る

東北大で開発された新しい炭素素材の実用化を目指す株式会社3DC。全く新しい炭素素材を用いた長寿命の蓄電池を開発し、持続可能なエネルギーの基盤を作ることを目指しています。代表取締役CEOの黒田拓馬さんに、これからのビジョンについてお話を伺いました。

どんなイノベーションを目指しているか

今まさに起きているエネルギーのあり方の変化

エネルギーのあり方は、人類の歴史上今まさに大きな転換期にあると思います。化石燃料を使って発電する時代から、太陽光などの再生可能エネルギーを利用する時代に移り変わっています。原子力についても例えば核融合などの新しい発電方法が模索されています。エネルギーの転換については高校生が研究してみると面白いテーマがたくさんあります。

火力発電のような従来の発電方法の場合、発電所で集中的に発電した電気を送電線で家庭や企業に届けていました。これからは発電のシステムが分散していきます。太陽光・風力などの再生可能エネルギーで発電した場合、火力や原子力発電と違うのは電気の発電量が「不安定」なことです。太陽光発電の場合晴れていれば発電できますが、曇りの日や夜だと発電ができません。そうなるとどこかにエネルギーを「ためる」ことでエネルギーの量を平準化する必要があります。

つまり再生可能エネルギーとエネルギーの貯蔵技術は一体のもの。そこでエネルギーをためる役割を持つのが「蓄電池」。本当に環境によく持続可能なエネルギーを実現するためには、再生可能エネルギーに加えよい性能の蓄電池を作る必要があると考えています。

例えば電気自動車が走るのは、電気をためる蓄電池(バッテリー)を車の中に備えているからです。現在1回の充電で電気自動車を500~600km走らせる性能を持つ蓄電池まではできています。そして今後は「次世代電池」ということでより高性能の蓄電池が求められています。

炭素の新素材を生かし、蓄電池の寿命を延ばす

蓄電池の開発についてのこれからの課題は2つ。1つは、いかに小さな蓄電池で大きなエネルギーを生み出すか。もう1つは、いかに蓄電池の寿命を延ばすかです。

例えば電気自動車は走行時に排気ガスを出さないのでガソリン車に比べて環境に優しいと思われていますが、実は製造の時にはガソリン車の倍の二酸化炭素を排出するというデータもあります。さらに10~15年で電池の寿命が来てしまうので、たくさんの車を作らないといけません。

リサイクルすればよいという話もありますが、電気自動車の蓄電池に含まれるレアメタルを回収し再利用するのは困難です。それと関連して、レアメタルが特定の地域でしか産出されないというリスクもあります。

これらの課題の解決には、「蓄電池の寿命を延ばす」必要があります。そこで、蓄電池の材料に着目しています。必ず含まれているのが、炭素。つまりよい炭素の材料を作ることができれば課題を解決できると考えています。

そこで、私たちは東北大学の西原洋知先生が開発をしたGMS(グラフェンメソスポンジ)という材料の実用化を目指しています。GMSは炭素原子が立体的に結びついているカーボン新素材です。やわらかく劣化しにくいという特徴があり、蓄電池の寿命を延ばすことが期待できる素材です。

グラフェンメソスポンジのモデル=株式会社3DC提供

蓄電池にはいくつかの性能があります。寿命の長さ、電池の出力、製造のためのコスト、などです。そしてこれらの性能は、どこかがよくなればどこかが悪くなるという関係の中にあります。例えば寿命が長くなれば、電池の出力が落ちます。電池の出力を上げようとすると、製造のためのコストが高くなります。しかし材料がよくなれば、この関係性を打ち破り、すべての性能をよくすることができるのです。

これまでの歩み

私は工学系の大学院を卒業して材料メーカーに就職したのち、ベンチャー企業に投資をする会社「ベンチャーキャピタル」に転職しました。ベンチャーキャピタルに転職したのは、世界各国がものすごいスピードで経済成長していく中で、日本がこれから浮上するきっかけを作るためには産業を作ることが大切だと感じたからです。私は日本各地の大学の面白い技術を事業にするという仕事をしていました。大学には面白い技術があるものの、まだまだ眠っている技術も多くあります。大学の先生と議論しながらいかにビジネスにしていくかというサポートをしていました。

その中で出会ったのが、東北大の西原先生です。最初にGMSという技術を聞いた時に「これはとても面白い材料だ」と直感しました。事業を作るためのサポートをしていましたが、半年くらいお手伝いしてどうしても自分でやりたくなってしまいました。ちょうど西原先生もビジネスに理解がある仲間と組みたいと考えていたこともあり、2022年2月に3DCを創業し、一緒に実用化を目指しています。

スマートフォンなどには欠かせない「リチウムイオン電池」は世界で初めて日本で開発されたものです。充電が可能な電池で小型・軽量化を可能にしました。この技術が蓄電池にも生かされています。その技術と経験があるからこそ、まだまだ世界で戦えると考えていますし、新しい電池を開発したいという思いを持っています。

グラフェンメソスポンジの粉末=株式会社3DC提供

アイデア・技術を実現するために

実用化のためには、まずは社会の側の視点を考える必要があると思います。GMSも新しい炭素の素材ということで、炭素の材料研究の分野では注目されていました。ただそれを実用化するためには「社会から必要とされている」という状態まで進めることが必要です。

もう1つ必要なことは、俯瞰的に見ていく視点です。社会の側には色々なプレイヤーがいます。電気自動車を例にすると、電池を作るメーカーや車を作るメーカー、それから産業を育てたい行政機関など、いろいろな思いを持った人とかかわる機会があります。「こうしたい」という理想・ゴールに向けて、誰とどのようによりよい形を創り出すかが大事で、そのためには俯瞰的に、引いて見る力が大切だと考えています。

未来へ向けて・高校生へのメッセージ

蓄電池が長寿命化していくことは間違いない、という仮説を持って研究開発や量産化できる仕組みづくりを進めています。まずは「この材料を使えば明らかに電池の性能が良くなる」という状態を作って、材料を注文いただけるようにしないといけないと考えています。開発には数年単位の時間がかかりますし、量産化には資金集めも重要になります。

物理の法則的にこうなる、化学の法則的にはこうなる、など科学の理屈は決まっています。事業は諦めずにチャレンジし続けることが重要ですが、そのためには圧倒的に強く信じられる芯が一つあるというのは安心材料になると思います。幼い時の原体験があって、「絶対こうしたい」という思いを持っている方もいらっしゃると思いますが、我々の場合はそれが科学に真摯に向き合うということかなと思います。

そうすれば、手を打ち続けて試行錯誤していく中で前に進んでいくと思います。私たちの良い材料は世界を変えるという確信を自分たち自身が持って、技術の実用化を進めていきたいと考えています。

編集後記

全く新しい技術で産業を作り日本を盛り上げていきたいという黒田さんの熱い思いを感じました。高校生におすすめの本は司馬遼太郎が明治期の日本を描いた「坂の上の雲」。長編の小説ですが、「ゆっくりと本が読める高校生のうちに読んでおくのがおすすめ」とのこと。

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