起業家

文具店からIT企業への事業転換 実現した3代目社長の思い

創業78年目の株式会社高山(宮城県塩釜市)の代表取締役である高山智壮さん。2022年1月に3代目社長に就任した高山さんは、これまでの文具・事務用品販売から事業転換し、現在はITを中心としたサービスを提供しています。現在の事業内容と高山さんが事業転換した理由、高校生へのアドバイス等を聞きました。

どんなイノベーションを目指しているか

DXを通じて働く人を増やしていく

株式会社高山の代表として企業向けの「DX」を中心とした事業を展開しています。DXとは「デジタルトランスフォーメーション」のことで、ただ業務を効率化するだけではなく、デジタル化を通じて企業の提供価値をアップデートしていくことで、経営者も社員も幸せになれることを目指しています。

現在の日本は一人あたりの生産性やITリテラシーの低さに加え、社員のエンゲージメント(働きがい、やりがい)も他の先進国と比べて低いなど、「生産性が低い上に幸福感が低い」働き方になってしまっています。そこで、社員の幸福感が高まれば主体的な社員が増え、生産性が上がると確信しています。それらを解決する手段がDXです。

株式会社高山では「DXで共に、働くを幸せに」をスローガンにしています。まず私たちが生産性を向上させ、業績を向上し社員も幸せに働ける環境を実現する。私たちがDXを実践するロールモデルとなることで、東北の中小企業にDXを普及していきたいと考えています。実際、株式会社高山はここ数年で仕事の生産性が上がり、働く時間を減らしながらも毎年給料を上げられるようになってきています。

これまでの歩み

私は宮城県塩釜市出身です。中学では野球、高校ではレスリングに打ち込むスポーツ少年で、レスリングはインターハイ・国体にも出場しました。高校卒業後は東京の大学に進学しました。もともとは祖父が戦後間もない1946年に会社を創業し、学校などに文房具や事務用品を届ける事業を行っていました。周りからは後継ぎとして期待されていたと思いますが、20代前半は2代目社長である父とうまくいかなかったこともあって家業を継ぐ気は無く、東京の大手銀行に就職しました。

銀行員として働く中で、地元に戻るきっかけとなる出来事がありました。2011年3月11日の東日本大震災です。当時東京にいた私は、ボランティア活動をするために帰省するのですが、地元が地震・津波で大きな被害に合う中、泥かきしかできない自分に無力感を感じました。亡くなられた人がたくさんいる中で、自分が本当に生まれてきた意味・使命は何だろう。このまま東京にいていいんだろうかとすごく考えました。

そんな時、実家で母親にある1本のビデオを見せてもらったんです。それは創業者である祖父が亡くなる直前、生まれたばかりの私を抱き抱え父に対して「必ずこの子に会社を引き継げ」と言っている様子でした。

私はこのビデオを見た時、稲妻に打たれたような衝撃が走り、この会社を通じて地元に貢献することが自分の使命なんだと後を継ぐことを決意しました。

とはいえすぐに銀行を辞めて戻ってもダメだと思い、ビジネススクールに入り経営を学んだり、アメリカ・シリコンバレーのIT企業をみたりして、デジタルシフトの必要性を体感した上で、株式会社高山に入社しました。

入社する前から文具販売は価格競争にさらされており、このままでは会社として持続的に成長できないと事業転換を考えていました。ただ戻ってすぐに事業転換はできないと考え、まずは自分自身の銀行時代の経験を活かし、インターネット上のサイバー攻撃から中小企業を守るサイバーセキュリティ事業に注力します。そんな中で新型コロナウイルスの感染拡大が起きました。コロナでリモートワークが拡大していく中でオフラインからオンラインに急激にシフトすることを確信し、事業転換をするのは今だと考え、DX化を社内で宣言して事業転換を本格化させていきました。

現在行っている事業は主に「採用支援(集客、デジタルマーケティング)」「IT活用支援」「サイバーセキュリティ」の3つです。1つ目の採用支援については、もともと自社で採用を相当研究してデジタルマーケティングの力で応募者を集め採用につなげる仕組みを構築していましたので、その仕組みをサービス化し提供しています。

2つ目のIT活用支援ですが、世の中に多くの便利なITサービスがある一方で、特に東北の中小企業経営者から、ITサービスに対してのアレルギーを感じていました。

そこで、DXを推進していくためにはまず自社がロールモデルになることが必要だと考えたんです。具体的には、あらゆるITサービスを調査・検証し、これから地元の会社にも役立ち使ってもらえるものを厳選して、まずは自社で使う。その上で、その自社の取り組みを紹介する「DX体験ツアー」を始めました。実際に取り組みをみてもらうと、「そうそう、こういうことをやりたいんだよ」とのお声を頂きます。

今、一番力を入れているのは「生成AI」です。デジタル格差が広がる中でも、こうしたいという指示を生成AIがつくってくれる。生成AIに作業は任せて、人間はもっとクリエイティブな仕事に費やしたり、家族と過ごす時間などを生むことができる。生成AIを活用した働き方改革をサービス展開できるようにするため、社内で実証実験しているところです。

アイデア・技術を実現するために

私と同じような後継ぎや事業承継者にとって、今後は起業家精神が重要になると思います。起業家精神はもう少し広義でいえば、自らが問題を定義したり志を持つことです。ただ単に親の事業を引き継ぐ事業承継だけでは今後生き残れないと考えています。私の経営哲学として変化に対応することを大切にしているのですが、引き継いだ事業を自分が変えていくという意思を持つことが大切です。もう1つは、「仮説の検証を続けていくこと」です。例えば起業や新規事業にしても、大半のアイデアはあたりません。だけどあきらめずに仮説検証を続けることが大切で、高校生の時からでもできることなのではないかなと思っています。

未来へ向けて・高校生へのメッセージ

若い世代のみなさんには、「自分がこうなりたい」という心を大切にして欲しいと思います。日本一になりたいとか有名になりたいとか何でもいいんですが、何らかの問題意識を持ったり、ワクワクしてこういう世界をつくっていきたいといった考え方を持ったりすることが大切だと考えています。

事業承継にしても言うは易しで、私自身色々な壁にぶつかりました。だけど挫折した時そこでどうするのかが大切で、それを乗り越えることは成長するための神様からのギフトだと思うようにしています。

「テストで〇点とれなかったから失敗」みたいなことではなくて、テストで点を取れなかったからといってあきらめず、学び・成長の機会だと捉えられるとよいと考えています。そのような考え方が起業家精神だし、起業家だけではなく、すべての人に必要なことだと思っています。自分を突き動かすような強い想いがあれば。挫折があっても成長の糧と考えやすくなると思います。

編集後記

「自分たちが変わっていき、DXを実践するロールモデルとなることで、東北の中小企業にDXを普及していく」という高山さん。周りからは順風満帆のように見られることもあるが、数多くの挫折があったと言います。

お薦めの本もご紹介頂きました。

司馬遼太郎「竜馬がゆく」…レスリングで日本一になり、オリンピックに出場したいと思っていたのですが、途中で大けがをし、もうできないとなって、挫折。そんな時に出会った本が「竜馬がゆく」で、腕がなくなろうとも日本のために諦めずに行動を続ける姿勢に感銘を受けました。

ナポレオン・ヒル「思考は現実化する」…私たちの考え自体が現実化するという考え方を知り、その後の就職や、より成長できる環境を求める自分の考えに影響がありました。

関連記事

記事一覧にもどる

最新記事

記事一覧にもどる