微細藻類ユーグレナで、世界中の社会課題を解決する研究者
大学院在学中に仲間とともに株式会社ユーグレナの設立に携わり、世界で初めて屋外における食用の微細藻類ユーグレナの大量培養に成功したエグゼクティブ・フェローの鈴木健吾さん。ユーグレナ・フィロソフィーとして「Sustainability First(サステナビリティ・ファースト)」を掲げ、人と地球を健康にすることを目指す同社の取り組みや、技術を社会実装するための鈴木さんの考え方についてお話を伺いました。
どんなイノベーションを目指しているか
ユーグレナ(和名:ミドリムシ)は植物と動物の両方の特性を併せ持つ、体長0・05ミリほどの微細藻類です。ワカメなどと同じ藻の一種で、植物と動物の両方の特性を持っています。子どもの頃に顕微鏡で見たことがある人もいるかもしれません。含まれる栄養素が59種類と多く、ビタミン、ミネラル、アミノ酸など野菜、魚、肉などに含まれる主要な栄養素をユーグレナ単体でバランスよく持っているのが特徴です。
私はこのユーグレナを大学時代から研究し、東京大学大学院農学生命科学研究科修士課程在学中だった2005年8月に社長である出雲らとともにユーグレナ社を立ち上げました。その4か月後の12月、これまで実験室レベルでの培養にとどまり、1キログラム当たり数十万円だったユーグレナを屋外で大量培養することに成功しました。
ユーグレナを安定的かつ低コストで培養できるようになり、食品や化粧品などのヘルスケア事業、バイオ燃料事業などに展開してきました。
近年では、主力商品である「からだにユーグレナ」ブランドにおいて、睡眠の質の改善やストレスの抑制についての機能性表示が可能となり、より消費者にユーグレナの魅力をアピールできるようになりました。
バイオ燃料事業にも動きがあり、マレーシアで商業用プラントをつくるプロジェクトが始まっています。燃料に限らず研究拠点もマレーシアに新しく構え、日本国内だけではなくアジアはじめ世界の課題を解決しようとしています。
また、東北大学未来型医療創造卓越大学院というプログラム内で特任教授(客員)として年に数回は仙台市を訪れています。医師として患者さんに接している方々とのコミュニケーションの中で、疾患予防の部分においてどういう役割を果たせるかということを議論するのにとても有益な場です。
これまでの歩み
ユーグレナと出会ったのは大学3年生だった2003年。研究を通じて世の中の役に立ちたいと漠然と考えている中で、研究室に配属され、研究テーマを考えたのがきっかけでした。大学の先生が与えてくれたテーマは別にありましたが、他の選択肢も見た上で決めたいと、猶予をもらって研究室内外で話を聞いて回りました。その中ですごく興味をひかれたのがユーグレナの研究です。
私が尊敬する東京大学名誉教授の近藤次郎先生は、1990年代にユーグレナの光合成により二酸化炭素を酸素に変えながら栄養素をつくり、食料問題と地球温暖化の問題を同時に解決するという構想をされており、それを実現する技術としてユーグレナの大量培養を研究テーマに定めました。社会を変える可能性があるということが大きな魅力でした。
研究にあたり、近藤先生の愛弟子の中野長久先生(大阪府立大名誉教授)との出会いは大きな出来事でした。中野先生が会長を務める「ユーグレナ研究会」のメンバー約100人のほぼ全員に会い、多くの研究者の失敗経験をかき集めました。ユーグレナの研究はすでに多くの先生が行っていましたが、日常業務もある中で、研究室の先生一人で大量に作ることは難しいものでした。大学の先生は論文にならないことは情報発信しづらいので、大量生産成功のためのヒントや失敗例が外部に発信されないままになっていました。そのデータや知見を集めることで効率よく成功につなげられるのではないかと考え、手元で小規模な研究をする傍ら、お話を聞いて回りました。
アイデア・技術を実現するために
技術を確立し社会実装したとき、喜ぶ人がどれくらいいるのかを具体的にイメージすることが重要だと思います。まずは検証できるものから検証し、そして試作品でもいいので形にしてみることです。例えば「このようなものがあったら買ってくれますか」と提案する場合、「このようなもの」の部分がテキストなのか実際のモノなのかで、人が受ける印象が変わりますし、より現実に即したアドバイスが頂けると思います。
また、事業化するためには数字にしてきちんと成り立つかを考えることも必要です。どんなプレーヤーがいくらお金をもらえば、そのシステムが回るのか。仮の数字でもいいので一度書いてみて、複数の人と議論し、妥当なところに落とし込むことができれば、社会における必要な資源も集まりやすくなると思います。
今思えば、ビジネスについての考え方を学ぶことを自然にとらえていました。体系的に学びたいという欲求は他の人よりも強かったのかもしれません。もともと研究成果を社会に実装したいという欲求も強く持っていましたので、そこから「逆算」して必要となる知識は何かと考えたとき、成功事例を参考に自分たちが提案する内容をつくる方が効率的だと考えました。
社会実装している事例に当てはめて、自分のストーリーを乗せた時にどうなるかを考えたいと思ったのです。ゼロから作るよりは体系的に学べる本をよく読んで、見様見真似でもいいので成功事例を活用する方が効率よく資源を集められると思ってやってきました。
未来へ向けて・高校生へのメッセージ
ユーグレナでやりたいことは無限にあります。まだ解明されていない成分について見極めていきたいですし、いろんな地域に生息しているユーグレナの性質を確かめたい。ユーグレナは、ヘルスケアの商品や肥料や飼料、バイオ燃料の原料として地球上の人があまねく知り、使っているわけではありません。そういった人たちに使ってもらうにはどうすべきか、研究としてフォローすべき側面もあると思っています。
将来的な宇宙空間での活用についても考えています。例えば、月面や宇宙に人が長期滞在するようになる時代がおとずれた時に、ユーグレナが光合成で人の排出する二酸化炭素を吸収し酸素に変え、人の生活排水を栄養分に変え、人の生活を支えることが重要だと考えます。それが実現できると、人が宇宙に住むにも地球上で効率的に暮らすにも大きな寄与があるでしょう。
高校生のみなさんに伝えたいのは、将来において理想の自分に自動的になっていることはない、ということです。なりたい自分をイメージすることが重要だと思っています。私は高校生のころ漠然と研究者になりたいと思ってはいたが、具体的に憧れる人を答えられませんでした。それならば尊敬できる人が多くいそうな集団の中に入ってみよう、そうした集団の中でも見劣りしない知識を習得しようと、努力する動機を見つけていきました。
次に、目標が出来たらそれを人に語ってみることです。高校生の皆さんの周りには、応援してくれる人がたくさんいらっしゃると思います。いろんな人に相談しながら具体のイメージをつくり、イメージができたら、未来を変えるために今日自分ができることは何かを探していきましょう。
漫然と過ごすよりは暫定的な目標でもいいと思いますので、なりたい自分を気軽に決めて、それに向かって何が必要かを設計し、一日、一週間と過ごす中で自分の理想が見えてくることもあります。やったことは無駄にはなりません。頑張ってください。
編集後記
大学生で研究を始めた当初から、常に社会実装を念頭に“逆算”で戦略を立ててきた鈴木さん。この考え方こそが成功の秘訣なのだと感じました。おすすめの本は「世界一やさしい問題解決の授業―自分で考え、行動する力が身につく」(ダイヤモンド社)をご推薦いただきました。ロジカルシンキング・クリティカルシンキングについて分かりやすくまとめられた一冊だということです。