サポーター

オンラインを活用し、新たな学びを届ける元新聞記者

この「みちのくイノベーターズライブラリー」の制作・執筆を担当している株式会社オーナー社長の佐々木敦斗さん。東京大学卒業後新聞記者、民間企業を経て2021年に起業し高校生向けの「探究学習」の教材を制作しています。この「みちのくイノベーターズライブラリー」はどのように作られているのか、そしてそもそも「書く」という仕事になぜ就こうと思ったのか、お話を伺いました。

どんなイノベーションを目指しているか

高校生の視野を広げ、将来を考えるきっかけを増やす

この「みちのくイノベーターズライブラリー」の制作・執筆を担当しています。まずは「みちのくイノベーターズライブラリー」をお読みいただき、ありがとうございます。ぜひ多くの記事を読んで楽しんでいただければと思っています。

「みちのくイノベーターズライブラリー」には、アイデア・技術を実社会の中で実現しようと挑戦されている起業家・研究者や、その挑戦を支えるサポーターのストーリーを紹介しています。私たちが一から取材し、写真を撮影し、文章を考え、このホームページにアップすることで1つひとつの記事を作っています。

高校生のみなさんがこの記事を読み、「そうなんだ!」、「知らなかった!」、「面白い!」と感じていただけることを目指しています。そして、ご自身の高校での探究活動や課題研究、そして大学でどんなことをしたいのかということを考えるきっかけを提供したいと考えています。

この教材は東北大学さんと一緒に作っていますが、もともとは「起業家精神」や「アントレプレナーシップ」と言われる新しく何かを生み出す力を育てよう、ということではじまった取り組みです。

とはいえ、高校生の皆さんがいきなり「アントレプレナーシップ」と言われてもなかなかイメージが湧かないと思うので、もう少しかみ砕いて「アイデア・技術の実現への挑戦」というテーマでこの教材を作り始めました。

工夫した点は2点あります。まず1点目はできる限り多様な分野の方を取り上げるということです。「環境」、「エネルギー」、「IT」、「工学」など多様な分野の専門家を収録しています。また同じ分野でも研究者と起業家の方を両方取り上げています。これは、高校生の興味・関心というのは1人ひとり異なっていると感じているので、それぞれの興味・関心にこたえられるようにこの形で記事を制作してきました。

また、制作を進める中で自分で起業したり挑戦したりする方ばかりではなく、「挑戦を支える」という選択肢を見せていった方がいいのではないか、という声が上がったので、市役所の方や投資機関など、など「サポーター」の事例も入れることにしました。


もう1つはみなさんが自分の興味・関心に沿って記事を見つけられるよう、各記事を「カテゴリー」や「タグ」で分類しています。また、記事の最後には「関連記事」ということで同じ「タグ」がついている記事が表示されるようになっています。意外な専門分野同士のつながりが見えてとても興味深いです。ぜひ「カテゴリー」や「タグ」、「関連記事」を手掛かりに記事を探してもらえると嬉しいです。

もともとは2021年に創業し、高校生向けの「探究」の教材として「探究百科GATEWAY」という教材を作ってきました。こちらは研究者、起業家さん以外にも社会で活躍する多様な先輩のストーリーを紹介しています。「みちのくイノベーターズライブラリー」にも、「探究百科GATEWAY」の経験を生かしています。

◆探究百科GATEWAY
https://gateway.guide/

これまでの歩み

オープンキャンパスが職業選びのきっかけに

高校時代は岩手県の盛岡第一高校に通っていました。「書く」という仕事をしようと思ったきっかけをさかのぼると、高校1年生の時に参加した東京大学のオープンキャンパスが最初です。この時は、1人で新幹線に乗って東京に行って、初日に4つほど大学を見て、2日目に「赤門」がある本郷キャンパスで開催されたオープンキャンパスに参加しました。

志望していた教育学部のプログラムに参加した時に、おそらく大学4年生の先輩だったと思うのですが、「将来は社会を知るために、まずは新聞記者になろうと思います」と話していたのです。当時家で新聞を取っていたわけではないのですが、ここで初めて「新聞記者」という職業と、その「社会を知るためにまず記者になる」という一言にひかれて、そこから記者という職業に興味が湧きました。

同じころ、高校の図書館で見たスポーツ雑誌「Number」(文藝春秋)もきっかけの1つです。そこには野球やサッカーといったスポーツのシーンが生き生きと描き出されていました。スポーツ選手のロングインタビューや、試合の勝利を決定づけたシーンを取り上げた臨場感ある文章に目を奪われました。

実は私は全くスポーツができず、運動ができないことにコンプレックスを感じていたのですが、スポーツを観戦するのは昔も今も大好きです。こうやってスポーツを客観的に伝えるという仕事があるんだ…というところから、「伝える」という仕事の価値に気づくようになりました。

その後、念願かなって東京大学に進学。大学1年生の時に著名人にインタビューするサークルに入り、2年生の時には「新聞」をテーマにしたゼミに所属。3年生の時には新聞社が企画している大学生向けのプログラムに参加し新聞社に通いました。大学3年生になる直前に東日本大震災があり、将来の進路に悩んだのですが、高校1年生の時に聞いた「社会を知るためにまず記者になる」という一言がこの時も頭の片隅に残っていて、新聞記者になりました。

記者時代は広島県で1年、兵庫県の姫路市で1年半過ごしました。皆さんが見ているようなニュースの現場に足を運び、色々な話を聞き、それをすぐに記事にまとめていきました。事件・事故・裁判、それから選挙や地域のイベント。高校生に身近なところで言うと合唱や吹奏楽のコンクールの取材や、1つの高校を取り上げてその特色を新聞1面にまとめるような特集記事も取材しました。また高校野球を取材したことも思い出で、阪神甲子園球場での取材も経験しました。取材した選手が今もプロ野球で活躍している姿を見ると嬉しくなります。

=新聞記者時代は甲子園球場での取材も経験


大学3年生になる直前に震災を経験した私たちは2011年の東日本大震災後に就職活動を行った最初の世代です。(1つ上の世代は震災当時就職活動をしていました)

岩手県出身ということや私のルーツが被災地にあることから、大学時代からいつかは東北に戻ろうと考えていました。記者になって3年目、教育系の民間企業で働く人を仙台で募集していることを偶然知り、もともと教育学部卒で教育にも興味があったことから転職を決意。2015年秋に東北にUターンし約6年間勤めましたが、主な仕事の1つが東北地方の高校で行う進路講演の講師でした。「将来の夢の見つけ方」や「志望理由の考え方」などを毎日のように講演。この民間企業の仕事では「書く」よりも「話す」ことが中心でした。


そして再び、書き始める

そして2021年に起業したことをきっかけに、再び文章を書く仕事をしています。新聞記者として人の話を聞き、それを文章にしていく経験と、それから約6年間高校生に向けて講演したり、高校の先生方と話した経験が掛け合わされて、高校生に合わせた文章を書けるようになってきたなと実感しています。自分の経験の掛け算が、起業や今の自分につながっているように思いますし、過去に数年間でもしっかりと取り組んだ経験は、必ずその後の人生に生きてくると感じています。

アイデア・技術を実現するために

「教育」の大切さを感じています。アイデアや技術を実現するためには、そもそも「このアイデアを実現したい」、「この技術を社会に役立てたい」ということを考える必要がありますが、そのためには自分自身が何かを知ったり、気づいたり考えたりするところがはじまりになると考えています。

その意味では、高校で新しく始まった「総合的な探究の時間」には可能性を感じていますし、探究学習を通して高校生が自分自身の「やりたいこと」を見つけられたらいいなと考えています。探究学習も課題研究も個人やグループで自分自身でテーマを設定し進めていきますが、これがなかなか難しい。

探究活動のテーマは自分が「知っていること」の中から決めていくので、まずはいろんな知識や情報を得て、自分が「知っていること」を増やすことが大切だと感じています。そして今は多くの高校生がタブレット端末やスマートフォンを持っており、タブレットやスマホを活用していけば全国の多くの高校生に情報を届けることができる時代になりました。オンラインを通して高校生の「知っていること」を増やし、探究学習、さらにはその先の将来を考えるというところをサポートしていきたいと考えています。

未来へ向けて・高校生へのメッセージ

これからやっていきたいことは2つあって、1つ目は表現の幅を広げていきたいと感じています。今の自分のスキルとしては文章が書けて写真も撮れますが、さらに動画も撮影・編集していければより面白い教材づくりができると感じています。ライターは日本にたくさんいますが、写真も撮れるライターとなるとその数は絞られます。あるいは「起業」や「大学の研究」をわかりやすく伝えられるライターという点でも数が絞られるでしょう。そこに動画、とかあるいはデザイン、など新たなスキルが掛け合わされることで、自分自身の希少性(レアさ)は高まっていくと考えています。

もう1つは、「質問力」を磨くことです。AIが登場し、AIも文章が書ける時代になりました。私も試しにAIに文章を書かせてみたことがありますが、確かにAIはわかりやすくまとまった文章を書くことができますし、その文章の精度は年々上がってきているように感じています。

とはいえ、AIは与えられた情報の中から文章を作るのは得意ですが、そのもととなる情報をAIに与えるのは人間の仕事です。記事制作においては文章を「書く」ということよりも相手に質問する、そこから話を引き出すということこそ、人間が磨くべき力なのかもしれないと思っています。取材の場面では、重要なエピソードのところは「それはなぜですか?」、「詳しく教えてください」などと質問を加えて深堀していきます。このような「質問力」や「話を引き出す力」は取材の場数を踏んで増やしていきたいと思います。

最後に、この「みちのくイノベーターズライブラリー」は高校生のみなさん自身と一緒に作っていく教材だと思っています。私も今後みなさんの前で講演したりお会いすることもあるかもしれません。その時には「こんな記事を書いてほしい」などの要望をぜひ聞かせてください。

編集後記

東京大学卒の佐々木さん。東大を目指した理由は「高校時代に教育の重要さに気づき、東大で教育学を学びたかったから」。19歳だった大学1年生の時には地方の高校生の進学を支援する学生団体「FairWind」を設立し、15年経った今も後輩たちが活動を継続しているとのこと。

33歳となった今は自ら起業し、教育分野に取り組んでいます。「自分で新しい学びの形を作りたいので起業しました。自分がやりたいことを自分の力でやれるので、起業してよかったと感じています」と話しました。

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