サポーター

イノベーションを推進する「投資」の役割とは

会社の経営に不可欠なお金。特に立ち上がったばかりのベンチャー企業はお金をいかに集めるかが大切です。東北大学発のベンチャー企業などを資金面でサポートしているのが、東北大学ベンチャーパートナーズ投資を担当している中川磨(おさむ)さんです。「投資」の役割とは何か、中川さんにお話を伺いました。

どんなイノベーションを目指しているか

大学発ベンチャーへの投資でイノベーションを促進

 東北大学の技術を利用したベンチャー企業への投資を行っています。東北大学には優れた研究がたくさんあります。その研究成果の中から事業化できそうな成果を見つけ出し、事業化するにはどうしたらよいのかということを研究者・経営者の方と一緒に考え、資金面のサポートをするのが私たちの仕事です。東北大学には事業化できそうな技術がたくさんあると感じています。工学系の材料・素材の研究や半導体の研究は歴史的に強く、世界レベルに通用する分野ですし、AIや自然言語処理、画像解析、ディープラーニングなどを研究している研究者の方もいらっしゃいます。興味深い研究をしている若手研究者の方もいらっしゃいます。

大切にしているのは情報の収集です。人脈を持っている人と定期的に会っているとニュースになっていないような情報を収集することができます。面白そうだなと思った研究にはこちらから飛び込んでいきますし、実験室・ラボや工場を見学させていただくこともあります。

東北大学の先生方がやっている最先端の研究はどれも興味深く、「そんな研究があるんだ」といつも驚かされます。例えば「ドラえもんの手」というようななんでもつかめるロボットハンドを開発している先生もいらっしゃいます。さらに、「この技術は事業化できる」と感じたときはさらに楽しい気分になります。

研究者・経営者の方自身が、ビジネスの可能性に気づいていないことがあるため、我々がいる価値が発揮されると感じています。例えばすごい技術があっても、どうやって社会の中で生かしていくかについて十分に考えられていないケースがあります。1人で考えていると視野が狭くなってしまいがちなところを、我々が大きな絵を描いていくことが大切だと思います。

実際にお会いして、こちらから質問を投げかけることで本人が気づくことがあります。事業になりそうなことを見つけたときや対話を繰り返す中でご本人が「それだ!」と言語化できた時はうれしい瞬間です。

これまでの歩み

 もともとは茨城県の地方銀行に勤めていました。1997年に銀行で働き始めたのですが、当時は「ITバブル」といわれた時期で、大学の技術を生かしたベンチャー企業も出始めていた動きが面白そうだなと感じていました。自分も筑波大学に通っていたので、筑波大学発のベンチャー企業のことも知っていて、「銀行からベンチャー企業を支援したい」という思いで銀行に入りました。

 

 その後念願通りに筑波大学発のベンチャー企業を支援する仕事にも携わらせてもらいました。また、20代のころですが出向という形で東京のベンチャーキャピタルでも働きました。投資について全くわからない中で投資する企業を探すため、1週間に数百社の企業に連絡して訪問するような動きを半年間続けました。この半年間は大変でしたが、だいぶ鍛えられました。

 そこから銀行に戻り、母校の筑波大学での起業家支援にも携わりました。約20年起業家支援の領域で働いていることになります。自分自身が秋田県の出身ということもあり東北にも関わりたいと思い、2021年から東北大学ベンチャーパートナーズで働いています。

 銀行とベンチャーキャピタルの違いをお伝えすると、銀行であればリスクが小さいところにお金を貸すのが中心になりますし、ベンチャーキャピタルなどの投資機関であれば、投資のリスクは大きいですが、上場した時に得られる利益も大きいです。みんなが「間違いなくうまくいく」というところに投資しても、みんなが投資するから、大きな利益にならない。99%が「うまくいかない」と思っているところに投資するから、利益を得られる。リスクを見極めてお金を貸したり投資したりして、利益を得るということは共通していると思います。それが金融の面白さだと感じています。

 大学がベンチャーキャピタルを持つことで、研究者の方が起業するといった、特に創業の初期段階の企業を支援することができます。また投資によって得た資金を大学が利用することができます。その資金は大学の研究資金になり、しかも大学が自由に研究テーマを設定して使える資金になります。海外の大学は自ら資金を獲得するのが当たり前になっていますので、日本でもそのような流れになっていくと思います。

アイデア・技術を実現するために

 サポーターとして色々な企業を支援する中で大切だなと感じているのは、アイデアや技術の実現のためには、企業がお客さんの課題(ペイン)をどれだけ理解しているかだと思います。経営学にプロダクト・マーケット・フィットという考え方があって、商品がどれだけマーケット(市場)にフィット(適合)しているかという考え方なのですが、このフィットのところが一番難しいのです。お客さんの課題をどれだけ解像度高く理解して、自分たちの企業の強みをお客さんに伝えられるかが最も大切だと感じています。

それを見つけるためには、お客さんに聞くことが大切です。できる限り現場に足を運び、行動することがとても大事。あるいは試作品を作ってみてお客さんに聞いてみるなど、実際に動いていくなかで次の課題が見つかっていくと思います。

未来へ向けて・高校生へのメッセージ

東北地方には事業の種がたくさんあると感じています。最近は東北から上場している企業も増えてきました。農林水産業など地場の産業もありますし、そういった産業と大学の技術を組み合わせていくことも考えられると思います。

起業に興味のある高校生の皆さんは、「自分しか気づいていない」というところの探究を進めていけるといいのではないでしょうか。ほとんどの人がうまくいかないと思っていても、自分だけはうまくいく、と思っていればそれは想像をしていないところに到達できると思います。

編集後記

「投資」や「融資」という金融の仕組みやその面白さを伺うことができました。多くの起業家を支援してきた中川さん。中川さんがおすすめの本は「起業の科学」(日経BP)。「スタートアップが陥りがちな失敗や勘違い、その解決法などが数多く記載されている」とおすすめしています。

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