ICTを使い、介護現場の課題を解決するエンジニア
2020年1月に仙台で設立されたスタートアップ起業であり、ICTツールをはじめとした介護サービスを検索・比較できるプラットフォーム「介護のコミミ」を運営する株式会社GiverLinkの執行役員・開発責任者である伊藤証さん。プロのバンドマンを目指し、20代の大半をインディーズバンドとしての活動に費やしてきた伊藤さんに、なぜGiverLinkに入り現在はどのような活動を行っているのか、高校生へのアドバイスも含めて話を聞きました。
どんなイノベーションを目指しているか
介護のテクノロジーを最適化する
はじめに株式会社GiverLinkの創業理由についてお話します。
もともと代表の早坂は大手の介護ソフトメーカーで営業を担当しており、約500の介護法人に足を運び、介護ソフトの導入提案・営業をしていました。
しかしながら、介護ソフトが高機能・高単価な一方、介護職員はそこまでの機能を求めていなかったり、ソフトの詳しい内容まではネット上に公開されておらず必要なソフトを職員たちで選ぶことが難しかったり、様々な課題がありました。
早坂自身営業として介護ソフトを提案する中で、販売する側と、利用する介護職員側とのミスマッチが生じることがあり、求められているものを提供できないという課題を感じることがありました。
そこで、介護ソフトを販売するメーカーと利用する介護職員の中立的な立場で利用者が使いやすいソフトを提供したいと考えて株式会社GiverLinkを創業し、ICTツールをはじめとした介護サービスを検索・比較できるプラットフォーム「介護のコミミ」を運営するに至りました。
これまでの歩み
私は愛知県出身です。中学までは野球一筋だったのですが途中で怪我をしてしまい、その後バンドにのめり込みプロのバンドマンを目指していました。高校卒業後、慶応義塾大学に進学して東京に行った後、バンドメンバーが名古屋だったので、大学卒業後は名古屋のIT企業にエンジニアとして就職しました。
しかし、バンドが本格化したため1年程度で退職し、20代の大半はインディーズバンドとしての活動に傾倒しつつ、複数のアルバイトを掛け持ちしながら生計を立てていました。
8年程経ち、インディーズでCDを出せるくらいにもなったのですが、30歳近くになって、生活のためにバンドを辞めて就職するメンバーがいたり、コロナがあってライブができなくなったりしたため、私自身もバンドのHPやCDジャケットなどのクリエイティブ制作の延長で始めたWeb制作・Webデザインの仕事を本業にして働くことにしたんです。
現社長の早坂とは「介護のコミミ」の開発依頼を受けたことがきっかけで出会い、そこから2年間は業務委託として継続的にお仕事を頂いたり、たまに食事に行ったりする関係でした。そこから、目まぐるしいスピードで事業が成長していく中で、自分が担う役割も大きくなっていき「伊藤さんが必要です」と言っていただけるようになりました。当時は結婚もして名古屋に住んでいたのですが、GiverLinkに入ることを選び仙台に移住してきました。現在は開発責任者として「介護のコミミ」の開発業務全般を担当しています。
介護人材の不足は年々深刻化しており、2025年には37万人、2035年には79万人の介護人材が不足すると予測されています。一方、介護現場ではICTツールの導入・活用が未だ進んでおらず、必要以上の人員が生産性の低いケアを行っています。また、ICTツールの活用を進めようにも、ツール数が多くて選定しづらい、価格や仕様情報が限定的にしか公開されておらず、高齢の介護職員が適切なツールを選定できない等の課題が存在します。
現在はそういった課題を解決するため、介護職員の声を聴いたうえでの、サービスのマッチングに力を入れています。具体的には以下の二つに注力しています。
1つは、「介護のコミミ」のユーザである介護施設の職員の悩みを聞いて寄り添うコンサルティングです。
介護職員は「介護のコミミ」を利用して資料請求を行うのですが、介護職員の方自身も自分たちの悩みが明確ではないことも多いため、「実際にどのような悩みがあって、どのような介護ソフトを探しているのか」を把握した上で、より良いソフトウェアを紹介しています。
具体的には資料請求された方にスタッフが電話をして、「あなたたちの本当の悩みってなんですか」「この会社よりもこっちの会社の方が合っているかもしれません」といったコンサルティングをしています。
本当は直接介護施設に出向いて、実際の介護職員の声を聞いた上でサービスの提案をしたいのですが、コロナの影響でなかなか出入りできない施設もあり、こういった手法を採っています。
2つ目は「介護のコミミ」に登録してくれた介護施設の職員の利便性向上です。具体的には会員登録機能を充実させたり、質問ができるような掲示板機能を実装することも検討しています。他にも「介護のコミミ」を利用している介護施設の職員の方が本当に欲しいソフトウェアに出会えるよう、様々な取り組みを検証・開発しています。
アイデア・技術を実現するために
私は起業家ではないですが、これまで心掛けてきたことは二つあります。
「選択肢が多い環境をつくる」「迷ったら面白い方を選ぶ」ということです。
私は中学の時にバンドと出会うのですが、高校を卒業後にバンドだけで行くのか、進学するのかという選択肢を迫られた際に、より多くの選択肢が残るよう、進学を決めました。
色んな選択肢がある中からバンドを選べたならそれで納得感があると思いますし、可能性が広い中から選べる環境をつくることは重要だと思います。
また、大学卒業してから就職で名古屋に戻ったことや、バンドからエンジニアとしての活動を始めること、GiverLinkを選ぶことなど、様々な選択肢がある中で、面白い方を選んで今に至ったという感じです。自分で面白いと思ったことを選んできたからこそ、納得感があるなと感じます。
未来へ向けて・高校生へのメッセージ
高校生に伝えたいことは「自分なりの成功体験をつくること」です。勉学か部活のような身近なものでもいいですし、小さなことでも自分なりのハードルを設定して達成感を味わう中で自信がつくと、その後の人生でポジティブになれると思います。
自分の場合は大学受験の勉強でした。高校は県内で2,3番手くらいの公立の進学校だったのですが、その高校にはギリギリ受かったので成績は320人いる中で318位とかだったんです。
バンドもあるし大学にはいかなくてもいいかとも思っていたのですが、その後の選択肢を増やしておきたかったのと、自分は中学まではプロ野球選手を目指していたのですが死ぬほど努力しても全然足りないなと思ってあきらめてしまいました。野球で一生懸命できなかったところを引け目に感じ、それを受験勉強にぶつけた感じで、一日十何時間勉強して、慶應義塾大学の文学部に合格しました。
「何のために勉強するのか」に対して、イチロー選手が「与えられた課題に対して役割や責任を全うするための訓練」というようなことを言っていて、すごく共感したことを覚えています。
だから国語とか数学がどのようにその後の世の中に役立つかというよりも、「与えられた課題に対して向き合うことそのものが、将来に役立つと思う」ことが大切なのかなと。自分では選べないことに対して自分で意味づけしていく習慣があれば、大人になってからも楽しいと思うんです。
私は受験での成功体験を糧にバンドに向き合ってきましたが、今度はスタートアップであるGiverLinkに向き合っていければと思っています。
編集後記
「バンドマンからスタートアップ」という、異色のキャリアを持つ伊藤さん。お薦めの本もご紹介頂きました。
「七つの習慣(スティーブン・R・コヴィー)」
できるだけ早く良い習慣をつくることをして欲しい。自分の場合、例えば早寝早起きです。毎朝5時に起きてジムにいったり、読書したり、勉強したりというのを習慣にしているのですが、早く習慣を作った方が得ですし、もっと早くやれば良かったと思っています。これは受験勉強でも就職活動でも役立つと思います。