起業家

ITを活用し、災害時の自治体支援の効率化を目指す

被災自治体と支援する側の企業や団体の間のコミュニケーションを支援するITサービス「B-order」を提供する、プライムバリュー株式会社代表取締役社長の吉田亮之さん。なぜ「災害時のコミュニケーション」という課題に取り組んでいるのか。その思いを伺いました。

どんなイノベーションを目指しているか

被災自治体と支援企業の災害時のやりとりをITの力で解決する

災害発生時、被災自治体と支援企業などとのやりとりを円滑にするITサービス「B-order」を開発しています。これまでは、災害で被災した自治体が食品や生活用品などの支援物資を企業から調達したい場合、その連絡手段は電話やFAXがほとんどでした。企業側は複数の自治体から同時に要請を受ける状況だったので支援の要請が非効率になっていたという課題がありました。

「B-order」を使えばこのような災害時の支援物資の要請やコミュニケーションをインターネット上で行うことができます。支援要請などのやりとりを全てオンラインで行うことで、効率的に支援物資を送ったり受け取ったりすることができます。

このサービスを考えたきっかけは、あるイベントに参加したことでした。仙台市さんが企画していた防災テックのイベントに顔を出して、災害時の自治体と支援団体とのやりとりが効率化できていない現状、そしてそれは全国の多くの自治体で起こっていることを知りました。東日本大震災後も状況が変わっていないことにも驚きました。

私自身、東日本大震災の際に仙台で被災しており、東北が復興するまで、これまで全国の方に支援頂いたことを感謝しています。一方で、支援を頂いた私たちは、日本を変えるようなアクションをできているだろうか、していくべきじゃないかという想いがあって。

全てを変えるのは大変だと思ったものの、それを東北の企業としてやりたいと思って、「支援要請のデジタル化」という、全国規模の課題を解決する、新しいサービスを創ることにしました。

「B-order」はすでに全国の自治体でご導入いただき、また支援企業側でも、日本を代表する飲料メーカーやコンビニエンスストア、大手スーパーなどにご登録を頂いています。

B-orderのイメージ=プライムバリュー株式会社提供

これまでの歩み

私は福島の須賀川市出身です。10代の時は自分に自信がありませんでした。両親は勉強ができたのですが、自分は勉強ができなくて両親の期待に応えられていないという思いがありました。高校では野球部に所属して楽しくやっていたのですが、最後の大会で結果を出せなかったことに、トラウマまではいかないけど残念な気持ちがありました。

そういったこともあり、社会人になったタイミングではとにかく自信をつけたくて、営業力を高めるために東京のITベンチャー企業に就職しキャリアをスタートしました。

だけど最初は全然売れなくて(笑)。半年くらいしてから出向で大手IT企業に行きました。

インターネットショッピングの営業をしてそこではサービスを売ることができ即目標達成出来ました。ただ、すごいのは自分ではなく、会社でした。もといた会社のサービスを売っている時は1万円の商品も売れなかったのが大手企業だと高額なサービスでもすぐ売れました。結局、自分に自信はつきませんでした。

その後、塾を経営していた親が倒れてしまって、塾の講師を手伝うために退職。父が復帰のタイミングで。別の大手ITインフラの企業に入って、仙台に住むようになりました。東北地方ではある程度売れるようになってようやく自信がつき、それで独立できたという感じです。

会社を起業した理由は「自分の人生の終わりを想像していた」ことが大きいかなと思います。起業する前に結婚もしていたし、東京の本社に来ないかという話もあったくらい結果も出せていて、もっと大きな仕事をできるなと思っていたのですが、「この仕事を続けたとして自分が死ぬ瞬間に納得できる人生になるのかな」というのをずっと自分に問いかけていました。結果、「このままだと後悔する。終わりある人生ならば後悔こそが最大のリスクだ!」と思ってチャレンジすることを決めました。

起業するまでの準備に時間を掛けました。。仲良いお客さんに独立する話をして、認知してもらったり同僚からも仕事振るからねと言ってもらえたりしたので、初年度から一人で生きていけるくらいの売り上げが立った状況をつくることができました。そういう意味での滑り出しは良かったと思います。

ただ、仕事そのものの中身は大手企業に勤めていた時と変わりませんでした。確かに売上はそれなりに立てられていたのですが、自分が死んだ後でも世の中に残るような仕事をしたいと思っていて、何か取り組めるテーマをずっと探していました。そこで出会ったのが「災害時のコミュニケーション」でした。

アイデア・技術を実現するために

事業のアイデアをつくって、実現していくために必要なことは、「誰かの課題を探すこと」に尽きると思います。誰かの課題を解決できることであれば、それは実現可能性が高いと思います。起業したい高校生には「人の課題を探してみて」とアドバイスしたいです。誰かがお金を払ってでも解決したい課題を探せれば、それに取り組んで欲しいですね。

「誰かの課題」を見つけるには、好奇心を持って探したり、色んなイベントなどに顔出したり、とにかく何にでも行動することが大切です。X(旧ツイッター)で興味ある領域の人をフォローするとかでも何でもいい。何か行動に移すことが大切で、頭の中にあるだけだと変わらないと思います。

そして、見つけた「誰かの課題」について、自分が解決したいと執着できる思いが必要です。自分が取り組んでいる災害時のコミュニケーションという課題については、自分が諦めたら10年先も変わらないなと思いました。これは使命だと感じた。だからこそ強い思いを持ち続けて取り組めています。

未来へ向けて・高校生へのメッセージ

今後は「B-order」のつながりを生かして様々な事業を展開をしていきたいです。1つは、備蓄品管理システムの導入推進です。自治体は災害時の非常食や水などを管理する仕事があります。非常食といっても賞味期限がありますから、時間が経てば賞味期限が切れますし、定期的に買い替えが必要です。この備蓄品の管理については手作業で行っていて、「B-order」でできた自治体さんとのつながりを生かして、改善ができればと考えています。

自治体向けのB-orderのサービス=同社提供

もう1つは、商品や材料の取引で発生する受発注の管理です。災害時のやりとりを円滑化するというノウハウは、災害時でない時にも応用できると考えています。例えば中小企業同士の受注・発注でも電話やFAXがよく使われています。自治体で利用されているということは信頼感にもつながりますので、企業間のやりとりというところにも応用していきたいと考えています。

それらの事業を実現するにも、まずは「B-order」の普及が最優先になります。直近5年以内に1000自治体、そして約1700の自治体すべてが利用するサービスに育てていきたいと考えています。

編集後記

吉田さんから取材を通じて一番感じたのは、事業にかける熱い想いでした。吉田さんがお勧めする本はデール・カーネギーの「人を動かす」。吉田さんは「人との付き合い方を学べる素晴らしい本。より多くの人たちと接するようになる社会人になる前に呼んでおくと役に立つから」とおすすめの理由を話していました。

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